3年後の告白

中学生の頃、クラスでカンニング事件が起きた。

 

TとKの答案の間違え方や説明文が、ほとんど一緒だったらしい。

 

そこで、争点はどっちがカンニングをしたという話になった。

 

Tは普段、あまり喋らない大人しい子だ。

一方で、Kは成績優秀、スポーツ万能で友達や教師からの信頼も厚い、俗に言う優等生というやつだった。

 

Kは話し合いになるや否や、すぐに言った。

「僕がカンニングなんかするわけありません。僕はいつも努力してテストに臨んでいます。先生もご存知でしょう。カンニングするのは倫理観が欠如している人が行うものです。」

 

一方で、Tは、か細い声で反論した。

「私はしていない。」

小さく、弱々しい声だが、Tの精一杯の反論であった。

 

これを受けて、先生はKを信じることにしたらしい。

 

その噂は、瞬く間に学校に広がり、Tは学校でカンニング魔のレッテルを貼られ、いじめられるようになった。

 

一方で、この事件があったテストで、Kは見事に学年一位を取ったらしい。

 

うちの学校では、成績上位者は10名は有名高校への推薦状が与えられる。

そのため、学年順位はとても重要なものなのだ。

 

そして、最後のテストも終わり、Kは成績上位者10名に選ばれる。

見事に有名高校への切符を手に入れたKは、無事に入学した。

 

努力家であった彼に、みんなは「さすがKだな。」と言って拍手を送った。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

 

高校では、中学と同様に成績は優秀であった。

 

しかし、自分より勉強ができない生徒を見下したり、裏でタバコを吸っていたりと、悪い噂は絶えなかった。

 

そのため、成績は優秀だが、中学生の頃のような人望は完全に失っていた。

 

そして、高校3年生を迎える。

 

Kは苦しんでいた。

 

全てを手に入れ、順風満帆の人生を送るKがもつ、唯一の癌がKを蝕み続けた。

 

それが、あのカンニング事件だ。

 

実は、あのテストの前日、Kはピアノに没頭しており、勉強など全くしていなかったのだ。

 

しかし、テストでいい点を取って、成績上位者に入らなければならないという呪縛は彼をカンニング行為へと導いたのだ。

 

そして、その後、カンニングの件で話し合いになったが、Kは罪を認めるどころかTに罪をなすりつけたのだ。

 

学校の全員が信じたと思われたが、人望があるKとはいえ、彼をよく思わない人間もいた。

Iはその中でも、リーダー的存在であった。

 

彼らは、Tを擁護し、Kに疑いの目を向けていた。

 

Kは時間が解決するだろうと思ったが、現実は違っていた。

 

それどころか、IたちはTに事件の詳細や、その他のKの言動から、事件の犯人はKであったと断定する証拠を手に入れていた。

 

Kは怯えていた。

 

恐怖心でいっぱいだった。

 

そして、高校三年の冬に全てが壊れた。

 

Kと同じ有名高校に進学していたIが学校中にその噂をばら撒いたのである。

 

もちろん、全員が信じたわけではない。

 

しかし、高校では人望を失っていたKにとってはそれで十分だった。

 

瞬く間に噂は広がり、とうとう、校長室に呼び出されたらしい。

 

それもそうだ、推薦で入学した生徒がカンニングの前科があると聞いては黙ってるわけにはいかない。

最悪の場合、退学処分となる。

 

Kは校長に「自分の口でみんなに伝えさせてください。」とだけ言った。

 

そして、後日、朝会のステージにはKの姿があった。

 

彼は自身の噂について全て話した。

 

カンニングをしたこと

カンニングをTになすりつけたこと

 

全てをありのままに話した。

 

全てを話し終えた後、そこには、中学生の時のKの面影はなかった。

まるで、高学歴の赤ん坊のように彼は泣き叫んで倒れ込んでいたのだ。

 

彼の必死の演説もあってか、校長は「彼は自らの罪を告白した。彼の勇気に免じて許してあげてほしい。」と言った。

 

校長は「男なのに、泣いたらダメだろ」と慰めるように、Kに言い放ち、2人はその場を後にした。

 

〜〜〜〜〜〜

 

後日、Iと一緒に、このことをTに伝えると、彼女は満足そうにしていた。

 

そこには、あの事件の時の弱々しいTはいなかった。

むしろ、さまざまな苦境を乗り越え、強くなったような気がした。

 

そして、ふと、彼女が口にした。

 

「なんで、Iは必死になって、Kの不正を暴いてくれたの?」

 

私もこれには疑問だった。

いくら、Kのことが気に食わないというだけで、ここまでやるだろうか。

 

Iは答えた。

「実は、俺は成績上位者11人目だったんだ。だから、あいつが不正をしていなければ、推薦で高校に行けたかもしれない。

でも、感謝してるよ。あの時の悔しさを原動力に死に物狂いで勉強して、ここに入学できた。

そして、最後には君の潔白を証明することができたからね。

それに、自分の好きな人がいつまでも罪を着せられていたら嫌だろ?」

 

美しい話だ。

私は「おめでとう」と拍手をした。

 

Iはニコッと笑い

「ありがとう」

と言った。

 

 

 

        シンエヴァンゲリオン河勝 

             〜終〜